人を育てるということ

農業はじめ、一次産業では後継者不足の問題がよく話題になるが、他産業においてもそれは同様の問題になっている。

別段それは今表面化してきたことに「今」やっと気づいたことではなく、人口の減少と日本の超高齢化社会と、若年層の減少期に入り、それは労働生産人口の減少がその根本的原因にあることはそもそも何十年も前から分かっている事である。

じゃあ、1次産業や、昔の職人気質の大工や、すし職人などいわゆる今まで「後継者不足」「3K」「厳しい」と言われてた産業全てが後継者不足かというとそうではない。

ハッキリ言ってしまうと、

「来ないところには来ない」し、

「いつかない場所にはいつかない」し、

「辞める職場はいつも辞める」のが現実だ。

そこには明確な原因がある。しかも共通項が明確に存在する。

以前、国内でも腕利きの70代の大工職人さんが今後の若手の育成を目的に、養成所を作り育成しているという番組を見た。驚いたのは、中学を卒業したての女子をはじめ、女子が数人いたことだった。

正確にいうと、今の時代女性が大工になるということが珍しいのではなく、その養成所が「厳しいのにも関わらず」女子や、若い子たちが20名ほどいたことだった。

そこでの生活は、完全寮生活で、朝5時起床してからは、炊事、洗濯、掃除はもちろん、殆どが雑務に下働きで1日が終わる。休みも殆ど無いし、小遣い程度は支給されていた。正直、今の若い子たちでは殆ど味わうことのない環境だったが、彼女たちの目がキラキラしていた。

そこには「人」が残る場所や産業の共通点が存在しているなと、その番組を見ていた。

先輩たちは、当然本職の大工仕事を終えてから、夜中まで後輩たちが学びたいことをサポートして教える。木材もそこの社長が提供する。先輩たちはそこで同じようにそうしてもらって学んだから、次の世代にそうする事はあたり前という前提で、何時まででも教えていた。

社長はもちろん経営者だから、仕事に対する妥協は全くなく、若手にも、見習いにも叱りつける。だけど、社長は必ず若手の社員の意見も聞きながらチャレンジさせるということに関しては止めない。当然、木材は高級な材料だからいい加減に任せる事はしない。いつも現場で曲がり、木目の見方や、これはこういう場所に使うんだから、この曲がりはおかしいんじゃないかとか必ず「目的」や「根拠」を伝えていた。

一方で、養成所の子たちは厳しい毎日が続く中で受けたインタビューで

「なんでこんなに厳しいところにいるんですか?」

という問いに

「社長さんは仕事にはすごく厳しいですし、よく叱られるます・・

 だけど、今まで本気で叱ってもらったり、注意してもらったりしなかったんです。

 先輩たちも、自分たちが聞いたことにまったくいやな顔しないで何時まででも付き合ってくれます。出来るようになることが嬉しいし、色々してくれる先輩や社長さんの期待に応えられるいい職人になりたいです」と。

結局のところ、こういう「背中」と「愛情」でしか人は育たない。つまり人が育たないのは自分の「背中」に魅力がないからで、受ける側が「愛情」と「本気さ」を感じないから。だから、給料を上げるとういういわゆる「お金でつる」という手段しかその場所に留める手段がない。だから、よりよい環境やお金が貰える場所があるとそこに行く。つまりそこの職場や人には愛情を感じないから。

自分は大学時代、社会人と、アメリカンフットボールをしていたが、練習はしんどかった。それ以上にコーチの方々、先輩が厳しかったけども「やることはやる」人たちだった。特にヘッドコーチは、他に仕事があるにも関わらず練習にも、練習後の夜中、明け方までのミーティングにまで付き合って頂いた。

そこで見た

「物事を成し遂げるにはここまでやらないと成し遂げられないんだよ」という姿勢や、「お前らが考えてたのは甘かったやろ?」

「これがお前らが考えてた掴みたい目標に行くためのあたり前やねんで。」

「お前らは何と引き換えにお前らが掴みたいもの掴むの?俺は、これだけ家族の時間や寝る時間や健康と引き換えにしてでも、お前らの掴みたいものに協力するで」という考え方や行動力を学んだ。

恩送りという言葉がある。

下級生の夏合宿は、下働きでしんどかったけど夕食食べた後よく「おい、お茶飲みに行くぞ!」って誘ってくれた。いつもお茶代とかご飯代とかもだしてもらったけどその時に

「自分に返さんでええねん。自分も先輩に同じことしてもらったから、俺で止めたら恥ずかしいやろ。俺だけ得して終わるだけやろ。だからお前も次に同じことしてやったらええねん」

広島カープの黒田投手も最後は年俸数億円を蹴ってでも、お世話になった広島カープに帰ってきた。若手にまだまだ伝えたいことがあったからだそう。

人を育てようとして「うちでは育たない」とよく聞くが、それは残念ながら正解を教えようとしているだけで、そんなことは本を読めば済む話。

一緒に悩んで、現場で汗かく「姿勢」を見せないかぎりその場にい続けないから、育たない。だから、リーダーは休みも一番ないし、しんどいところを受け持つんだし、体もきついし、何よりそれをやり遂げるだけの精神がきついもの。だけどそんな事は最初から「当たり前」なことなんだよなw

だから、みんなと同じリーダーはいないし、だんまりしてるリーダーはいないし、みんなが休んでるときに休んでるリーダーはいないし、みんなが行動しないから自分もやらないリーダーはいない。じゃなくても、自分はやるんだよねw