農業という仕事「も」シーズンオフを本当にオフにして過ごすわけがない

よく言われるのが「冬って何してるんですか?」という問いかけです。

一般的にそう見られてるのが「農業」という仕事なんだろうと思います。自分は学生時代に、剣道、野球、アメリカンフットボールとスポーツを経験してきたが、試合で勝つ人間は「練習している」からだし、勝ち続ける人間ほど「練習し続けている」し、試合以外の時間を「練習に費やしている時間が長い」。

試合はあくまで練習の成果を「試すだけ」の場であって、オリンピックの100m走なんて1回走るのはたった10秒で、予選から決勝まで進む人でさえ4回?5回?ほどしか走らないので、試合時間なんて実質1分もない。その1分のために365日×4年間、それを目標に生きてくる人はそこに来るまでの年数分、来る日も来る日も、暑い日も、寒い日も、けがをした時も・・淡々と練習して結果が目に見えているだけ。

それは、野球でもアメリカンフットボールでも同じで、試合時間なんて所詮2時間前後。そもそも試合で全力で走れないようじゃ試合に出ちゃダメなわけで、(レベルの高い集団ほどそもそもスターターになれないw)練習不足を本番でいきなりスーパースターになるのは無理な話。試合の結果は、どれだけ練習で汗をかいたかだし、いつまでもスターターでポジションを守り続けられるのは、それだけ人よりも汗をかき続けたから。そんなことはあたり前の話。

当然のことながら、ルールの変更や戦略の変更など、日進月歩で変化するルールや環境にアジャストできなくなれば、その時点でそういう競争社会では不必要になる。ただそれだけなので、自分がそこに存在したければ練習するだけだし、しなければ要らなくなる。そう、そういう世界ではいくらでも自分の代替は存在するということを知る。

そういうレベルの環境に身を置くと、どれだけのことを「普段から」当たり前にやり続けないと取り残されるのかを学ぶことができたし、それが当たり前の思考になる。

では「農業」という職業では実際にどうなのか?

農業の世界でも今、様々な変化が起こっているがそれはもう自分が農業を始めた20年以上前から想定内の話。その変化に対応すべく普段からコツコツと練習しておかないと、ルールの変更や、生きのいい若手についていけないのはあたり前。だって、頭も体も高齢化しているから。そのためには自分と一緒に高齢化して行く人たちにばかり囲まれていても、自分が高齢化してどんどん取り残されてゆくことに気付かなくなるので、常にイキのいい若い世代と接して、自分が年を取ってるんだという認識をしておく必要がある。

年を取ることは生物学上当たり前の事なのでそれは避けられないが、自分の現状認識を常に行っていると「対応」の使用があるし、出遅れる可能性が低くなる。

だから「自分と違う」農法や職業、地域、年代層と接して自分のポジショニングを、毎年どの位置に置けばスターターとして生き残ることができるのかを考える必要がある。

環境が変化して行く中で生き残るのに必要なのは「イノベーション」だが、同じ発想、同じ地域、同じ年代、同じ職業といくら時間を過ごしても、イノベーションは起こりようがない。イノベーションが起きるのは、「自分と違う見方、知識、発想」が融合しないと起きないから。そして世の中は、自分が知っている知らないに関わらず、出来る出来ないに関わらず、イノベーションが起き続けていることを知っているから。そして、グローバル化という言葉の示すことが、今まで強みだと認識していたことがある日突然弱みに変わってしまう事を知っているから。だから常に「教養」という「自分とは違うものの考え方や、宗教観、歴史観などがあるんだ」という認識を持っていないとそれを「今起こった変化だと誤認」してしまうから。

そういう「大枠のことをまず踏まえた後」自分の経営の見直しと反省と来季の「具体的」な行動指針を作る時間にする。

そもそも自社の(農園)のゴール設定が明確でないと、「過程」が明確にならない。結果には「期限」と「数字」が伴わないと絶対に「出来たらやる」で終わってしまうので、そういう思考だとまず出来ない。

大枠のゴール設定から引退を35年後に設定し、30年後、20年後、10年後、5年後・・と区切り、その中でシーズン計画、半期計画、月間計画、週間計画、デイスケジュールと落とし込んで行く。シーズンが始まるまでに、週間計画までは作成するのなんてどんな職業でもそもそも当たり前だと思っているので、2月までにそれを全部終わらせる。

次に、実際に現場レベルでの仕事のスケジューリングに入る。もちろん、そのためには今までの様な大枠のゴール設定がなされていないとここから先の計画は立てられない。

土作りとと一言に言っても、そもそも土作りには終わりがあるし、終わりがあるのは目標が明確だから。売り上げに対して、どの作物を、どのくらいの面積で、どこに販売し、販売単価はいくらで、いくらのコストを、何年かけて投資するということぐらいは簡単に出来る計画。そして、土作りによって売り上げや収穫量が面積当たりでも全く違う。それは何故かというと、土の胃袋によって抱える事のできる窒素成分が3倍にも4倍にもなる。だからそもそも収穫量が同じ畑でも違うし、胃袋の小さなところに土作りをしないで「隣がこれだけとれてるから」と安易に窒素だけを投入しても、そこに来るまでに土作りという「胃袋を大きくすること」と「その胃袋に見合った肥料のバランスを科学的に整える」ということをしてこないと、虫や病気の餌食になるためにお金を使って餌をバラ播いているのと同じ事になる。それが理解出来れば同じ面積当たりで売り上げも違うし、それ以上に利益ももっと違うということが理解できる。なぜか?

固定費(土地代、トラクター代、ビニールハウス代など)は同じだから。

そうならないために、うちの場合は40点以上の土の健康診断を行って、全ての数字の裏付けをし、それぞれ異なった処方箋を準備することで、収穫量の予想とそれに伴う売上高、コストの計算、利益予想が出る。そこで初めて、どんな機械、資材に投資をすることでステップアップする事が出来るのか、ローンを組んでも返済できるのか、どれぐらいの人件費を使えるのか、それによって新たな採用枠はどれぐらい広げなければならないのかが出てくる。

これは机上の話で、これが終わればアスパラ選別機の全ての錆びの研磨、清掃、消毒、修理から始まって、冷蔵庫の清掃、消毒、納屋の整理整頓、道具庫の整理整頓、機械類の整備、オイル交換、塗装。全ての道具類の整備、鋏や鍬、鎌の研磨を終わらせる。その際にも細かくすべてにおいてラミネートを張り付けて「今日来た人でもどこに何があるか」や「危険個所」や「注意事項」を明示する。

それを2月中下旬までにすべて終えた後、スタッフミーティングでその年の目標と行動計画を一つずつ確認し、再度修正点や改善点を見直してからシーズンインが始まる。

まあそれとは別に、農業関係の資料や本を読むのとは別に、読まなければならない本もあるし、読んでみたかった本も寝ないで読まないと時間が足りない。自分の仕事に関係する言葉ばかりだと、言葉が偏ってしまう。言葉の偏りは、発想や行動や表現の偏りに結び付くのでそれだけは自助努力で出来るだけ回避したいもの。

と大体こんな事をやっているので「冬なにしてるんですか?」と逆に聞きたいW

が、一般企業や、学生時代でも強豪チーム、社会人レベルでプレー経験している人だとそもそもこんなレベルは「当たり前」のことであって、ここから先が「努力」とか本当に意味での「対応力」だと思うけどね。